【労災事例】印刷労働者における胆管がん多発(規制対象外物質)

労働環境

はじめに

今回は化学物質の自立的管理のきっかけとなった労災について説明していきます。
日本の労働安全衛生法は、過去の労働災害の犠牲者の上に成り立っております。
これからの化学物質管理は、今後労働災害を出さないためにも重要となってきます。
過去の歴史を学んで今後に生かすことを行っていきましょう。

経緯

まずは、経緯からお話します。
この会社は1969年に創業しております。
作業はオフセット印刷というものです。
原因物質とされているものは印刷機の洗浄用に利用されている「1,2-ジクロロプロパン」になります。
当時は、世界保健機関の国際がん研究機関(IARC)の 分類では、この物質は発がん性物質かどうか分類できない「 グループ3」 に分類されておりました。

この会社では過去にも胆管がんの患者が出ており、最初の患者は1996年に発生しております。
2011年にこの会社の元従業員が、がん患者が続出していることから大学の教授に相談に伺いました。
この行動がなければ発覚しない可能性がありました。

今回の改正では、同一事業所で複数のがん患者が出た場合は労働基準監督署長に報告するとなっております。

1969年-創業
1996年-最初の胆管がん患者
1997年-2番目の胆管がん患者
1999年-3番目の胆管がん患者
2011年3月
 元従業員が大学教授へ相談
 オフセット印刷従業員
 20~40代が胆管がんに罹患
 業務由来?
 インキの洗浄に大量の洗浄剤
 1-2ジクロロプロパン(1.2-DCP)
 ジクロロメタン(DCM)
 300~800回/日洗浄
 局所排気装置未設置
 ばく露濃度は平均してそれぞれ110ppm(1)240ppm(50) ()内は許容濃度
2012年3月-労災申請
2012年5月-マスコミ報道
2014年-IARC発がん性グループ3→1へ
2015年-合計18名が胆管がんに罹患

法規制の限界?

1996年まではジクロロメタンを使用しており特別則の対象でした。


しかし1996年以降は、1,2-ジクロロプロパンのみの使用に切り替えたため特別則の対象外です。
ジクロロメタンは、当時は有機則の対象でしたが、発がん性が認められたため、現在は、特別有機溶剤に該当しております。
私の想像になりますが、おそらくこの時点で労働基準監督署などが立ち入り、有機則の対応を求めたものと考えられます。
局所排気装置や作業主任者の選任、特殊健康診断、作業環境測定など時間とお金がかかることが必要になってきます。

これらは、この会社のように30人規模の中小にとっては、大きな負担となります。
規制のかからない物質に変更し、これらの措置を回避したものと考えられます。
私も作業環境測定をやっており洗浄液をトリクロロエチレンなど当時、有機則の対象物質から1-ブロモプロパンなどの規制対象物質に変更する事業者をよく見てきました。
洗浄力は落ちコストも高くなるが有機則の対象外となるため変更するとのことです。
しかし、現在位置ブロモプロパンの許容濃度は、0.5ppmとなっております。
今回、濃度基準値としては0.1 ppmと更に厳しくなっております。
現在参考までに測定している場所においては 数十ppm出ている場所もあります。
沸点が低く揮発しやすく密閉で使用するしかない状況であります。
規制対象外だからといって安易に使用するのは避けた方が良いと考えます。

発がん性の認定

1,2-ジクロロプロパン についても1980年代の動物実験では発がん性が実際に認められております。
今回も、2017年に国際がん研究機関は、1,2-ジクロロプロパンを発がん性があるグループ1に認定しました。

この発がん性があるグループ1とは、 発がん性の強さを示すものではありません。
発がんの証拠を示すものです。
今回は、皮肉にもこの印刷会社において、複数の人に関する発がんの証拠が認められたため、グループ1に分類された形になります。
例えば、動物実験の場合のみには、このグループ低いもの分類されます。

最後に

労働安全衛生法22条には、事業者は健康障害を防止する措置をとるということが定められております。

安衛法22条
事業者は健康障害を防止する措置をとる
原材料・ガス・蒸気・粉じん・酸欠・病原体等

当時も現在もこの条文はあるため、特別則の対象外であっても管理すべきであったと言えます。


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