はじめに
日常生活を行う上で最も長い時間を過ごすのは室内ではないかと考えます。
オフィスや住宅など閉鎖性の空間になりますね。
屋外などの開放的な空間とは異なり、一度化学物質が持ち込まれると拡散、希釈はされにくいですね。
たとえその濃度が低濃度であったとしても、滞在が長時間というものによって影響がある可能性があります。
コロナ関連もあり、在宅時間は今後も長くなる可能性がありますね。
今回はこの室内の化学物質の影響について考えます。
シックハウスとは?
シックハウス症候群とは?
最近の住宅は昔の家屋と比べて、気密性が高まりすき間風がなくなりましたね。
断熱性も高まり、空気汚染が起こりやすい状況となっています。
建材や家具から発生した化学物質が揮発して、室内空気汚染等を起こし健康影響が起きるものがシックハウス症候群です。
職場や住宅のみならず、学校、病院、デイケアセンター等でも同様の問題が生じる可能性があります。
歴史
欧米では、1970年代に、石油ショックにともなう省エネルギー対策として、特にオフィスビルでの高気密化が進むことでオフィスビルで働く人々が健康障害を訴えるシックビルディング症候群が問題となりました。
日本では、1990年代から一般住宅におけるシックハウス症候群(シックビルディング症候群)が問題となりました。
近年の相談件数は横ばい傾向です。
海外では1970年代から
日本では1990年代から
どんな症状?
主な症状は、目がチカチカする、鼻水、のどの乾燥、吐き気、頭痛、湿疹など人によってさまざまです。個人差があるため公害などの広範囲の一般住民の生活に及ぶ害とは異なり、影響が限定的になります。
シックハウス症候群の定義は以下の様になっています。
原因は?
住宅などの高気密、高断熱化による影響は以下の様なものがあり、これらがシックハウスの原因となっています。
私の経験上、シックハウスといわれて化学物質を測定しても指針値以上のものはなく、その他のカビなどの影響が疑われた事例もありました。
国内の指針値
室内の化学物質について室内濃度指針値を定めています。
適用範囲
この指針値の適用範囲は以下の様に定められています。
室内濃度指針値
これは、現時点で入手可能な毒性に係る科学的知見から、ヒトがその濃度の空気を一生涯にわたって摂取しても、健康への有害な影響は受けないであろうと判断される値を示しています。
No. | 揮発性有機化合物 | 室内濃度指針値 |
---|---|---|
1 | ホルムアルデヒド | 0.08ppm(100μg/m3) |
2 | トルエン | 0.07ppm(260μg/m3) |
3 | キシレン | 0.05ppm(200μg/m3) |
4 | パラジクロロベンゼン | 0.04ppm(240μg/m3) |
5 | エチルベンゼン | 0.88ppm(3800μg/m3) |
6 | スチレン | 0.05ppm(220μg/m3) |
7 | クロルピリホス | 0.07ppb(1μg/m3) 但し、小児の場合、0.1μg/m3(0.007ppb) |
8 | フタル酸ジ-n-ブチル | 1.5ppb(17μgm3/) |
9 | テトラデカン | 0.04ppm(330μg/m3) |
10 | フタル酸ジ-2-エチルヘキシル | 6.3ppb(100μg/m3) |
11 | ダイアジノン | 0.02ppb(0.29μg/m3) |
12 | アセトアルデヒド | 0.03ppm(48μg/m3) |
13 | フェノブカルブ | 3.8ppb(33μg/m3) |
14 | 揮発性有機化合物総量(TVOC) | (400μg/m3) |
室内濃度指針値の改正
そのため、最新の知見が変われば変更されます。
最近は『室内空気中化学物質の室内濃度指針値について(平成31年1月17日薬生発0117第1号)』厚生労働省医薬・生活衛生局長通知が出され変更されました。
- キシレン 870μg/㎥(0.20ppm)→200μg/㎥(0.05ppm)
- フタル酸ジ-n-ブチル 220μg/㎥(0.02ppm)→17μg/㎥(1.5ppb)
- フタル酸ジ-2-エチルへキシル 120μg/㎥(7.6ppb) →100μg/㎥(6.3ppb)
改正作業は「シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会」などの専門委員会によって行われます。
参考:厚生労働省-シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会
準揮発性有機化合物(SVOC)
ここで揮発性有機化合物と異なる純揮発性化合物について解説します。
揮発性化合物は、常温常圧で大気中に容易に揮発する有機化学物質の総称となっています。
厚生労働省の資料によると 準揮発性有機化合物(SVOC) は以下の様なものとのことです。
フタル酸エステル類やリン酸トリエステル類は準揮発性有機化合物(SVOC)に分類されます。
沸点は、240-400℃で室内の内装材に可塑剤や難燃剤として使用されるSVOCsは、製品素材とは化学結合していないため、徐々にしみだし、ガス状、気中微粒子、あるいはダストと結合して存在するとのことです。
揮発性化合物より揮発しにくいものですね。
検査の方法
検査の手順は以下の通りになります。
事前準備
- 室内開放
30分以上開放
測定する室内の全てのドア(出入口)及び窓の開放
押入れ、タンス、棚等の扉も開放 - 室内密閉
5時間密閉
測定する室内のドア(出入口)及び窓を密閉
5時間放置
押入れ、タンス、棚等の扉は開放状態のまま
サンプリング
測定方法は主に2つに分かれます。
設計図書などに記載されている方法で行えば良いと思います。
最近の主流はパッシブ法になります。
アクティブ法は必要機材も多いですが、採取が短時間で終わります。
パッシブ法
サンプリング機材を三脚等で高さ1.2~1.5mに固定
18~24時間放置
密閉して持ち帰り分析
アクティブ法
サンプリング機材を三脚等で高さ1.2~1.5mに固定
30分~1時間かけてポンプで吸引し、捕集剤に分析対象物質を捕集し分析
検知管法(参考)
検知管法は簡易的な測定方法です。
対応している物質も少なく、指針値の10分の1を満たすものも限られています。
現場で簡易的に結果を知りたい場合に使用するものです。
シックハウス測定に対応した検知管は以下のものになります。
連続測定式のものは専用の機器が必要になるため、簡易法といわれるほど簡易でもありません。
参考:ガス採取装置GSPシリーズ
連続吸引式検知管
また、温度、気圧により発色が変わり、変色層の境も幅があるため、読み方により値に幅があります。
主な6項目について対応検知管を示します。
- ホルムアルデヒド
0.08ppm(100μg/m3)
https://sp.gastec.co.jp/files/user/asset/pdf/detector_tube/91PL.pdf - トルエン
0.07ppm(260μg/m3)
https://sp.gastec.co.jp/files/user/asset/pdf/detector_tube/122P.pdf - キシレン
0.05ppm(200μg/m3)
トルエン用で換算する - パラジクロロベンゼン
0.04ppm(240μg/m3)
なし - エチルベンゼン
0.88ppm(3800μg/m3)
トルエン用で換算 - スチレン
0.05ppm(220μg/m3)
なし
分析
ガスクロマトグラフ質量分析法 (GC-MS) では、トルエン、キシレン、p- ジクロロベンゼン、エチルベンゼン等の揮発性有機化合物は、 固相吸着- 溶媒抽出法及びGC-MS分析法により定量分析します。
高速液体クロマトグラフ法 (HPLC) では、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド等のアルデヒド類は、固相吸着-溶媒抽出法及び 高速液体クロマトグラフ法により定量分析します。
対策や対応など
化学物質過敏症であるのか、症状の緩和が可能なのかを検討することは必要です。
そのために以下の様な対応や対策が言われています。
- まず身体不調と住宅やシックハウス症候群との関連を検討。化学物質のみならずカビやダニアレルゲン、湿度環境が原因になっていないか?を検討する
- しかし身体不調を化学物質のためとは決めつけず、心理社会的ストレスによる体調不良やメンタルヘルスの問題など,他の既存の考え得る疾患である可能性を「除外診断」する必要がある
- マインドフルネス認知療法などは症状を和らげて生活の質を向上させるためは役立つのではないか(Haugら2015)
最後に
室内の化学物質についても換気が重要になります。
持ち込んだ家具やDIYなどにも注意が必要ですね。
屋内の滞在時間が長くなっているため、少しでも化学物質の濃度を減らしたいですね。
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