私たちの身の回りの水や空気の安全を守る「環境分析」。その現場で欠かせないのがLC-MSやLC-MS/MSという装置です。
「名前は似ているけど何が違うの?」「なぜPFAS(ピーファス)分析には高い方の機械が必要なの?」といった疑問を、専門用語を控えめに、初心者の方にもわかりやすく解説します!
1. 基本を知ろう!LCとMSの役割
この装置は、大きく分けて**「分ける機械(LC)」と「見分ける機械(MS)」**の2つが合体したものです。
LC(液体クロマトグラフ)=「成分を整列させる」
例えるなら**「障害物競走」**です。
サンプルを液体に乗せて、特殊な粉が詰まった管(カラム)に通します。すると、通り抜けやすい物質は早く、通り抜けにくい物質は遅く出てきます。この「ゴール時間の差」を利用して、混ざりものを種類ごとにバラバラに分けます。
MS(質量分析計)=「重さで正体を突き止める」
例えるなら**「超精密な電子天秤」**です。
LCから出てきた物質に電気を持たせて(イオン化)、その「重さ(質量)」を測ります。「この重さならPFOSだ!」「これは農薬だ!」と、物質の正体を特定します。
2. LC-MSとLC-MS/MSの決定的な違い
最大の違いは、**「重さを測る回数」**です。
| 特徴 | LC-MS(シングル四重極) | LC-MS/MS(トリプル四重極) |
| 仕組み | 重さを1回だけ測る | 1回測った後、バラバラに壊してもう1回測る |
| 感度 | 普通(不純物に弱い) | 超高感度(ノイズを消せる) |
| 信頼性 | 「似た重さの別物」を誤認しやすい | 「壊れ方」まで見るので、誤判定がほぼない |
| イメージ | 重さだけで「10円玉」と判断する | 重さで選び、さらに裏の模様まで見て判断する |
3. 分析できる項目・できない項目一覧
環境測定において、何でも測れるわけではありません。得意・不得意を整理しました。
分析できるもの(得意な項目)
水に溶けやすく、熱で壊れやすい物質が得意です。
| カテゴリ | 具体的な物質例 | 必要な装置 |
| PFAS(有機フッ素化合物) | PFOS, PFOA, PFHxSなど | LC-MS/MS |
| 農薬類 | 除草剤、殺虫剤、殺菌剤など | LC-MS/MS |
| 医薬品成分 | 抗生物質、解熱鎮痛剤など | LC-MS/MS |
| 水の臭い・毒素 | カビ臭 (ジェオスミン), ミクロシスチン | LC-MS/MS |
| 環境ホルモン | ビスフェノールA, ノニルフェノールなど | LC-MS / LC-MS/MS |
分析できない(または苦手な)もの
これらは別の装置(GC-MSやICP-MS)の出番です。
- 揮発性物質(VOC): ベンゼン、トリクロロエチレンなど(→ GC-MSへ)
- 重金属: 鉛、カドミウム、水銀など(→ ICP-MSへ)
- 無機イオン: 塩素、フッ素、硝酸など(→ イオンクロマトグラフへ)
4. 水道水のPFAS(PFOS/PFOA)対応について
今、世界中で規制が強まっているPFAS。日本の水道水でも、PFOSとPFOAの合計で
50ng/L
という極めて低い目標値が設定されています。
- なぜLC-MS/MSが必要?
1ng/L(1兆分の1)というレベルは、**「25mプールに目薬1滴」**を垂らした中からその成分を探し出すようなもの。LC-MS(シングル)ではノイズが多すぎて、この微かな信号を捉えることができません。 - 公定法での指定厚生労働省の定める分析マニュアルでも、**「LC-MS/MS法」**の使用が義務付けられています。
5. 主要メーカーの特徴比較
導入時に検討すべき、世界シェアの高い5社です。
| メーカー名 | 特徴・強み |
| 島津製作所 (Shimadzu) | 国内シェアトップクラス。 サポートが手厚く、操作画面が日本語でわかりやすい。 |
| Waters (ウォーターズ) | LCの老舗。 分離能力が非常に高く、世界的なPFAS分析の実績が豊富。 |
| Agilent (アジレント) | 圧倒的なタフさ。 装置が壊れにくく、ソフトウェアのデータ処理能力が高い。 |
| Thermo Fisher (サーモ) | 技術の最先端。 極限まで感度を高めたい、研究用途での評価が非常に高い。 |
| SCIEX (サイエックス) | MS/MSの専門家。 汚れに強く、排水などの難しいサンプルでも安定して測れる。 |
6. 導入コストの目安(2026年時点)
精密機械のため、本体だけでなく周辺設備にもコストがかかります。
- LC-MS/MS本体: 4,000万 ~ 8,000万円
- LC-MS (シングル): 1,500万 ~ 3,000万円
- 周辺設備: 500万円〜(ガス発生装置、超純水装置、固相抽出装置など)
- 年間維持費: 200万 ~ 400万円(消耗品、定期点検、修理契約)
まとめ
環境分析の現場では、「より細かく、より正確に」測ることが求められています。特にPFASのような超微量成分を測るには、高価ではありますがLC-MS/MSが不可欠なツールとなっています。
装置選びの際は、価格だけでなく「メーカーのサポート体制」や「実際に使う人が操作しやすいか」を重視して選ぶのが成功のコツです!


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